11月2008

一体感を高めるために

 中小メーカーに勤めているAさんの上司は創業者の親類。人の話をほとんど聴かず、かなり一方的で、しかも好き嫌いがはっきりしているという。
「嫌われちゃったら仕事がしにくいから大変」とAさんは嘆く。不況の時代、上司への不満をもらそうものなら将来も危ぶまれる。それで黙っているから、うっぷんがたまってしまう。

 強者の立場にある人は人の話を聴くのが苦手なことが多い。常々書いていることだが、弱物の気持ちや立場を思いやるのが苦手になってしまう。しかし、急速に経済が失速し、みなが不安にかられている環境の下では、うっぷんをためこんで働いている人が多い会社ほど危ないように思える。

 こんな時代だからこそ人と人との連帯感、相手への思いやりが不安を温かい気持ちに変えてくれる。そうした一体感が欠けた会社の幹部は、人の話を聴くのが苦手な傾向が強いと思う。

 さて、アメリカではご存じの通りオバマ氏が大統領選で勝利を収めた。
その日の夜、シカゴの公園で20万人の聴衆に向かって行われたオパマ氏伸すピーチはとても興味深いものだった。

 私が本当にうれしく聴いたのは「自分はあなた方の話を聴こうと思っている。特に私と意見の異なる人たちの話を聴こうと思う」という一節である。
「オレについてこい」ではなく、「話を聴く」指導者はほとんどいなかったのではないか。特に日本では。

 こうした言葉がでるのはオバマ氏がマイノリティー出身だからこそだろう。オバマ氏が大統領になったからといって、すぐに景気が回復し戦いが終わるわけではない。しかし、権力をもつ人の姿勢が人々の一体感を高め元気を生み出すもとになる。選挙戦の間、オバマ氏は対立陣営から「コミュニスト」などと批判されていたが、それを冷静に受け止めていたのを思い出す。批判を受けるとすぐ逆ギレして怒鳴る幼さはここにはない。

2008.11.30.sun

喫煙はカッコいいか

 私は今、ハーバード大学でヘルスコミュニケーション関連の研究をしているが、最近興味深い報告を耳にした。それは若者の喫煙率を下げるためのキャンペーンである。

 アメリカではこのところ若者の喫煙率が上がりつつあり、それを防止するにはたばこに対する信念を変えることが必要だとされている。例えば、たばこを吸う人は独自の価値観をもち、自由で親や社会の権力者に反抗したカッコいい人間というイメージがある。一方、非喫煙者はいい子ちゃんで親や先生などの権力者や体制に従順な臆病者というイメージがある。この認識を新たなものに変えていこうと試みた。

 新しい認識では、喫煙者はたばこ産業という巨大な権力者のいいなりになっている人々、非喫煙者は独自の価値観をもち巨大産業の権力に反抗する人々、というイメージである。12から17歳の若者を対象にしたキャンペーンは効果があり、1999年から02年の間に若者の喫煙率は25.3%から18%にまで減少したという。

 アメリカではとくに権力にこびることが嫌がられるから、このキャンペーンは効果があったのだろう。かつてある有名なミュージシャンがビールのCMに出演したところ、大手産業という権力にこびているという理由でCDの売り上げが激減したそうだ。

 日本ではスターほど大手企業のCMに出演してそのギャラが話題になるけれど、アメリカでは考えられないという。企業のCMに出演するのを権力へのこびととるか、名誉ととらえるか、国によって意識はさまざまだなあと思うけれど、たばこに対する認識は両国とも共通しており、まだまだカッコいいととらえている若者が多いだろう。

 なにせたばこの広告費は年間178億円もかけられている一方、厚生労働省のたばこ対策関連予算はわずか3000万円。これではイメージチェンジは難しいだろう。

2008.11.16.sun

真のエリートはどこに

 夫の転勤でアメリカに住むことになったAさんは海外生活を楽しみにしていた。語学はさほど得意ではないが海外旅行の経験もあり、性格的にも異なる環境に適応する自信があった。30代で子供もいないので、英語を勉強しなおそうと学校にも入学を決めた。

 Aさんが住むことになった地域には日本人の集まりあり、さっそく入ることにした。仲間がいると情報も教えてもらえる、と期待したそうだ。この集まり、
初めて参加した時にはなんとなくよそよそしさを感じたものの、元来細かいことを気にしないAさんはそのうちに親しくなれるだろうと思った。

 ところが、しばらくして偶然に、Aさんは会員が自分の陰口をメールで送り合っているのを発見してびっくりした。会の人たちは高学歴で英語も流暢だ。Aさんが学歴もさほど高くなく、夫の地位も高くないことをさかなに盛り上がっているのだった。

 「あの年で今から語学をやっても手遅れね」というメールを書いている人もいたが、彼女は実際に会った時はにこにこして、がんばってねと声をかけた人だった。Aさんは陰口に傷つき、人のうらおもてにも傷ついた。日本にいる時、
そうした人たちとあまりかかわらなかったのでなおさらだった。

 エリートと呼ばれる人たちはしばしばできない人を見下すことがある。そしてエリートだけで集まった時、できない人を攻撃することで結集したりする。まるで子供のいじめの構造と同じだが、実は子供が大人の世界をまねしているといってもいいだろう。

 英語やお勉強ができる人が、すべてをできるわけではない。みな、それぞれ得意の分野を分け合いながら社会が成り立っている。それに気づかないエリートは真のエリートとはいえない。
 ハーバードにも日本から大学院に留学生がきているが、そのうち何人が真のエリートといえるだろうかなどと思ったりする。

2008.11.9.sun

選挙と健康の関係

 アメリカの大統領選まであとわずか。大学内の本屋さんには選挙関連の本が並んでいる。本のとなりには共和党、民主党それぞれのキャラクターであるゾウとロバの形をした容器に入ったミントが売られている。2ヶ月前の党大会のころはまだお祭りムードもあった選挙運動だが、経済危機が報道されてからはそのムードがなくなり、かなり深刻な雰囲気で進んでいる。

 さて、選挙と健康は一見全く関係がないようだが、実はそうではない。アメリカ国内の研究では、保守的な政党に投票する人ほど長生きの傾向があるという。つまり、そうした人々はよりよい環境に住み、すでに健康度も高い。だから公的サービスを必要とせず、社会保障制度を減少させる政策の政党に投票するといわれている。

 同様の調査はイギリスでね行われた。ジョージ・デイビー・スミスらによると、イギリス総選挙で83、87、92年のいずれも、死亡率が低い選挙区の住民ほど保守党に投票し、健康度が低い住民ほど労働党に投票したという。
 車の保有台数や住居過密度、失業率などの指数でも、豊かではない住民の多い地区は革新系に投票したそうだ。

 保守が選挙で勝利を得るには、みなが豊かで満足していなければいけないということだろう。世界中で格差が拡大し、一握りの人々だけが健康で豊かで富を独り占めする環境では、保守が選挙で勝利するのは、法則からみると不可能なことなのである。

 アメリカの選挙は、経済危機の進み具合と医療保険問題の進展が投票の最後の行方を左右するだろう。従来、保守絶対有利だった地区がいまだにどちらか決めかねているのは興味深い。
 「エリートだけ健康で豊か」な時代から「健康な人を多く」する政策が必要とされる時代なのだが、わが国の保守政党は、どうも選挙法則からみて負ける前提の政策をとりつづけているようだ。

2008.11.2.sun