中小メーカーに勤めているAさんの上司は創業者の親類。人の話をほとんど聴かず、かなり一方的で、しかも好き嫌いがはっきりしているという。
「嫌われちゃったら仕事がしにくいから大変」とAさんは嘆く。不況の時代、上司への不満をもらそうものなら将来も危ぶまれる。それで黙っているから、うっぷんがたまってしまう。

 強者の立場にある人は人の話を聴くのが苦手なことが多い。常々書いていることだが、弱物の気持ちや立場を思いやるのが苦手になってしまう。しかし、急速に経済が失速し、みなが不安にかられている環境の下では、うっぷんをためこんで働いている人が多い会社ほど危ないように思える。

 こんな時代だからこそ人と人との連帯感、相手への思いやりが不安を温かい気持ちに変えてくれる。そうした一体感が欠けた会社の幹部は、人の話を聴くのが苦手な傾向が強いと思う。

 さて、アメリカではご存じの通りオバマ氏が大統領選で勝利を収めた。
その日の夜、シカゴの公園で20万人の聴衆に向かって行われたオパマ氏伸すピーチはとても興味深いものだった。

 私が本当にうれしく聴いたのは「自分はあなた方の話を聴こうと思っている。特に私と意見の異なる人たちの話を聴こうと思う」という一節である。
「オレについてこい」ではなく、「話を聴く」指導者はほとんどいなかったのではないか。特に日本では。

 こうした言葉がでるのはオバマ氏がマイノリティー出身だからこそだろう。オバマ氏が大統領になったからといって、すぐに景気が回復し戦いが終わるわけではない。しかし、権力をもつ人の姿勢が人々の一体感を高め元気を生み出すもとになる。選挙戦の間、オバマ氏は対立陣営から「コミュニスト」などと批判されていたが、それを冷静に受け止めていたのを思い出す。批判を受けるとすぐ逆ギレして怒鳴る幼さはここにはない。

2008.11.30.sun