大学の講義が終わった後、駅でコーヒーを買い新幹線の車内で飲みながら帰るのが気に入っている。ところが最近こんなことがあってびっくりした。
あるコーヒー店での会話。
 「○○をテイクアウトで手さげにお願いします」
 店員さんはにこやかにうなずき料金を告げてこう応える。
「店内でお召し上がりですか」

 私は再度、「テイクアウトで手さげに入れてください」と答えた。彼女は再びうなずき、「店内用マグカップでご用意してよろしいですか?」
 さすがにまずいと思い、「これで3回目なんだけど、テイクアウトでお願いしたいんです」と言いながら、「あー、聞いてないんだなあ」と思った。

 実はこれと同様のことがこのところ頻発し、「聴く力」の低下をひしひしと感じている。自分が発言することと手順に意識が集中し、相手の言葉を聴く姿勢ができていないから何度言ってもコミュニケーションの壁が出来て、それにさえぎられてしまうのだ。これは危険。もしかして講義の重要なところも聞き逃されているんじゃないかしら、とチェックしてみることにした。

 大学では、医大生ではない学生が健康に関する知識を獲得することで医師と一般の方の間の知識の壁を低くするヘルスコミュニケーションを教えている。その日の講義内容は「熱中症」、特に命を落とす人もいる「熱射病」について。すみやかに体温を下げる処置をしつつ救急車で病院へ運ぶというポイントについて3 回くり返し説明した後、抜き打ちテストを行った。重要ポイントについて正確に答えられた人は70人中数名。「聴く力がない!」と学生にカミナリを落としたら教室中が凍りついた。後でゼミ生が「そんなに怒る先生っていません」。そうか、また人気下降か、と思いつつ、若者の聴く力を回復する対策を練っている。