アメリカと日本の往復で仕事をしていると、ボストンに着いてしばらくの間、そして日本に帰ってからしばらくの間は、何となく調子がヘンである。時差ボケではなく、仕事の流れがスムーズではないのだ。

 この原因は一体何だろう、と考えて気がついた。アメリカにいるとき、周囲のペースにあわせようとすると調子がヘンになり、日本に帰って来て、自分のペースで仕事をすると周囲とぎくしゃくするのである。

 発言も同じ。アメリカの研究室でみなの意見を聞きながら自分の発言のタイミングを探していると、いつの間にか論点がかわってチャンスを逃す。つまり、アメリカでは、自分のペースを守らないと疲れるし、日本にいる時は、相手にあわせることが大事なのだ。

 私は長年日本で生活しているから、無意識のうちに「相手にあわせる」スタンスが身についている。仕事柄、相手の意見や話を聞く態勢ができていて、その無意識レベルの刷り込みが原因になってアメリカに着いてしばらくの間は、自分のペースを作るのに手間どってしまう。しかし、何度も行き来しているうちに、次第に自分のペースを早めにつくることに慣れてきた。

 ところが皮肉なことに、今度はアメリカから帰ってきた時にちょっとしたトラブルがおきる。はっきりとノーと言いすぎて相手をびっくりさせてしまうのである。先日も若手の出版編集者に、「その企画は私がやるような内容ではないですね。できませんね」と言ったら、横柄な人間だと思われて、企画のやり直しも持ってこなくなった。

 ああ、この言い方は日本では通らない、と苦笑い。異文化の間でおきる適応障害の背景には、こうした心理的な差、自分のペースか周囲にあわせるか、はっきり言うか、やんわりとあいまいに言うかの差もあるだろう。海外生活帰りの方たちとかかわる方の参考までに。