日本航空(JAL)が破綻したというニュースをボストンで聞いた。経営が甘いとか、エリート意識がよくないとかいう批判が目立つが、私はこれらの批判に疑問を感じている。仕事でさまざまな航空会社を使ったが、私はJALほど特殊な利点をもった航空会社はみたことがない、それは「利用者への共感性」ということで、この特徴故にJALは経営破綻したのではないかと思う。JALは本当に親切だ。

 私はJALの知人親類がいるわけではない。しかし、欠航しようが遅れようが情報さえきちんと流さない外国の航空会社に苦労したから、海外でJALが飛んでいる場所に着くと心からホッとする。アメリカで国内線に国際線から乗り継ぐ時は、まるで戦場にいるようなストレスなのだ。

 ふだん日本にいると、いかに日本の航空会社が利用者のことを考えているかに気づかない。充分な共感性をもって利用者に対処するには従業員をカットできないし、給料の保証も必要だ。「人間」とかかわる仕事は、経営と仕事の質の保持が相反することが多く、それは医療ととてもよく似ている。

 かつてクリニックを経営していた時、クライアント(患者)にきちんと説明できるようスタッフを増やし、各専門家に給料を十分払っていたら、いつも赤字だった。いい医療といい経営とは、はっきり言って別物だ。アメリカで日帰り手術を受けた人が麻酔がやっときれてフラフラしている時、迎えがこないのに看護師に時間だからと帰らされ、驚いていた。

 わが国独特の共感性をもつ対処に、私たちは慣れきっている。人とかかわる仕事で経営が優先された時、失ったものに気づいても遅すぎる。JALのサービスに過剰に依存し甘えていた部分が、我々利用者になかったか。この破綻の原因は、単に会社自治体だけでなく利用者の過剰な要求とJALの過剰適応にあったと思う。