「うつ」にならないストレス防衛術:サンデー毎日2016.2.28


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うつ病学会総会の市民公開講座が終りました。

内的な事柄に目を向けて

新しい年、経済が好転してほしいなあ、と考えている方がほとんどだろう。しかし、多くの人の目が経済や収入などばかりに向いていることには、危険な面もある。今の状況を乗り切れればそれで幸せがやって来るかというと、そうとばかりは言えない。

バブルのころも精神的な問題を抱える方は多かったし、豊かな社会、一億総中流と言われた時期も、定年後の男性の心の不安や女性の子育て後のうつなど、悩みは多かったのだ。条件が良ければ幸せになる、という短絡的な思考は、少々転換してほしいと思う。

経済状態が、心と身体の健康を左右することも確かではある。アメリカでは、低所得層のがん死亡率が高く、健康格差が生じていることは、今まで何回か紹介してきた。

しかし、収入が多いほど健康かというと、そうでもない。アメリカ国民の1人あたりの国内総生産(GDP)はコスタリカの約10倍もあるが、両国の平均寿命は同じという。わが国の1人当たりの実質的GDPは、1964年から81年にかけて2倍になったが、主観的な健康、幸福状態は上昇しなかったとの研究がある。つまり、幸せを外的条件だけに求めてはいけないわけだ。

では一体、何が健康と主観的幸せ度を決定するのだろう。ティム・カッサーとリチャード・ライアンという2人の心理学者は、人生の目標を外的条件(経済的成功、名声、美貌)として努力する人と、内的な事柄(他者とのかかわりを満足なものとし、世の中を良くすることと自己成長すること)に価値を置く人の心のありようと健康について調べた。その結果、前者では喜びを味わうことが少なく、抑うつや体の不調が多いと発表している。

心と体の健康は、景気回復だけでは保てない。外的条件の達成ばかりではなく、内的な事柄という目に見えにくい目標にも、あえて目を向ける時期のように思う。

高齢者とうつ

先日ハワイでラジオ番組に出演し、現地の方のこころの悩みの相談を受けた。そのお一人は、6年前に夫を亡くして以来うつ病で、投薬治療を受けているが、ちっとも良くならず、つらいという。

食材を買ってきて食事を作ることはできるが、それ以外で外に出たくはない。まわりが明るく、観光客も多いから、幸せそうな人々を見るといたたまれなくなるらしい。ご家族は近くにいらっしゃらないのかと聞くと、子供たちは近所に住んでいる。でも、「子供たちは独立して結婚もしているから、迷惑をかけたくない」と続けた。

この日系女性は、まわりのコミュニティーともあまり接触がない様子だ。独立心も、子供に迷惑をかけたくない、との気持ちも立派。しかし、週に一度、みなで食事をするのは迷惑だろうか。

「全てか無か」でものごとを判断すると、気持ちが落ち込む引き金となる。毎日一緒の食事は、相手に負担かもしれない。しかし、ほどほどの距離感を保ちつつ、子供たちや友人、知人とコミュニティーをつくり、ネットワークを広げれば、落ち込んだ気分もサポートしてもらえる。

加齢と共にネットワークは次第に小さくなり、人とのかかわりが減ると気持ちが落ち込む、とハーバード大学のN・A・クリスキタス教授が語っている。ネットワークが縮む時期に配偶者の死が重なり、うつが進んでしまう例もある。話し合える人が多いと落ち込む可能性は低い。とくに友人は、特段何かをしてくれなくても、存在自体に意味がある。

いろんな人に少しずつサポートしてもらい、元気を回復したら今度は誰かを手助けする、というネットワーク作りが必要だろう。