9月25日、新刊『AIに心を預けて大丈夫か』が発売になりました。
今回は、この本を出版することになったきっかけを少し書いてみたいと思います。
少し長い話になりますので、お時間のあるときにお読みいただければ幸いです。
実は私は、AIは日常的に使っているものの、「AIと心」について本を書くつもりはまったくありませんでした。
きっかけは昨年暮れ、20年来の友人で、アメリカ在住のITセキュリティー専門家Terumi Lascowskyが、日本の地方都市でグローバル人材育成講座を行うために来日し、その帰りに都内で会ったことでした。
彼女から聞いたのは、アメリカではAIへの依存によって精神的に不安定になったり、自殺に至ったケースが訴訟問題になったり、AIとのやりとりの中で幻覚や妄想が深刻化するケースも問題になっている、という話でした。
「日本ではどうなの?」
そう聞かれたのですが、当時の日本では、若い人たちがChatGPTを「チャッピー」と呼んで楽しんでいる、というくらいの印象しかなく、私自身、それほど問題意識を持っていませんでした。
ところが彼女から、
「人生相談をAIにするのと、人間の臨床家にするのでは、どう違うと思う?」
と聞かれました。
その時初めて、「これは検証してみたほうがいいかもしれない」と思ったのです。
彼女からは、企業でAIを使う際にもガバナンスを考えなければリスクがある、一緒に本をつくらないか、という提案もありました。
そこで早速、企画書を知り合いの出版社や編集者に送りました。
ところが返ってきたのは、
「AIのリスクなんて誰が読むんですか」
「読者の顔が見えてこない」
「誰を対象にしてるんですか」
といった反応で、企画はいったん断念しました。
昨年の暮れにはまだ、日本ではAIのリスクに対する認識がそれほど広がっていなかったのだと思います。
今回、飛鳥新社からの出版と聞いて驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。
編集者の花田紀凱さんとは、文春時代からお名前は存じ上げていましたが、本作りの仕事をご一緒したことはありませんでした。ただ、花田さんが、私の毎日新聞のコラムを読んでくださっていて、時々「あれはいい原稿だったですね。」とメールくださったりして、単発の原稿依頼をいただいたりしていました。
そのなかで、花田さんが保護猫を9匹飼っていてほとんどの猫を看取ったのに、一匹だけ一番なついていた猫を自宅で看取れず動物病院で亡くしてしまって後悔している話などを聞いたり、花田さんの編集したにゃんこ4字熟語辞典をいただいたりして花田さんの世間には知られざる一面を知り、猫がご縁でつながりができていました。そして花田さんが、小さな和菓子屋や農家や生産者を東日本大震災後、支援活動を人知れず継続している姿も見たり社会的弱者といわれるひとたちをひそかに支援しているのを知りました。
そこで花田さんに、AIリスクの企画について編集者としての意見を聞きたくなり、
「編集者として、AIのリスクというテーマはどこがそんなに面白くないのでしょうか」
と聞いてみました。
すると即座に、
「それは面白いですよ。絶対必要だからやりましょう」
という返事。
こうして本づくりが始まりました。
まず知りたかったのは、「実際に、みんなはAIをどんなふうに使っているのだろう」ということでした。
そこで知人の皆様にメールでアンケートをお願いしました。
アンケートフォームやレイアウトはこのホームページを作ってくれている盟友の林トモコさんにお願いしました。
そしてご協力くださった皆様、本当にありがとうございました。
私が驚いたのは、自由記述欄に寄せられたたくさんの言葉でした。
「こんなふうに使って役に立った」
という声がある一方で、
「かなり間違ったことを、いかにも正しいように言うので怖い」
という声もありました。
アンケートのAI利用方法の分類・分析は、九州大学准教授の錦谷まりこ博士にお願いしました。
では、若い世代はAIとどんなふうに関わっているのだろう。
それも知りたくなり、フィリピン大学で講師を務める松隈信一郎博士に協力をお願いし、フィリピン大学の学生の方々にも同じ内容で質問しました。
すると、日本とは文化的背景が違うこともあり、AIとの関わり方にもかなり興味深い違いが見えてきました。
そして、本書ではさらに、
AIに相談するのと、心療内科医である私に相談するのはどう違うのか。
AI恋愛とは何なのか。
どこからがAI依存なのか。
AIに思考をゆだねることで、私たちの考える力はどうなるのか。
AIによって「できる人」の意味が変わる時代に、私たちはどう生きるのか。
そして、AIに評価される時代をどう生きればいいのか。
そんな問題を一つひとつ考えていきました。
AI翻訳と人間の翻訳家では何が違うのかについては、翻訳家の中島小百合さんに執筆をお願いしました。
また、企業におけるAIガバナンスやアメリカの現状については、Terumi Lascowskyが解説しています。
気がつけば、新書にしてはかなり分厚い一冊になりました。
けれども、この本で伝えたいのは「AIは怖いから使わないほうがいい」ということではありません。
巷には今「AIをビジネスにどんどん使おう」というセミナーがあふれています。ただそのうちどのくらいの方がリスクへの認識があるかが懸念されます。
AIを敵にするのではなく、味方にする。
そのためには、便利さだけでなく、どこにリスクがあるのかを知っておくことも必要だと思うのです。
AIに任せていいことと、人間が手放してはいけないこと。
この本が、それを考える小さなきっかけになればうれしく思います。
最後になりましたが、アンケートにご協力くださり、ご自身の体験や率直な思いをたくさん書いてくださった皆様に、改めて心から感謝申し上げます。
多分あの沢山の自由記述が私の背中を押してくれたと感じています。
海原純子

