8月からハーバード大学の客員研究員になりボストンに住むことになった。数ヶ月ごとにアメリカと日本を往復する。仕事を始めてハーバードの危機管理システムに驚いた。

 今、日本の病院の危機管理で問題になっているのは、院内感染と病院内の犯罪、医療事故などだろう。こうした問題に対して、わが国ではまだ徹底した対策やシステムがとられていない。さてハーバードではどうしているか。

 私はハーバード大学のHSPH(公衆衛生大学院)とダナハーバー研究所というガン専門病院で働いている。まず一番にすることは「健康スクリーニング」である。健康診断というと血圧や検尿が頭に浮かぶかもしれないが、そうではない。結核をはじめ風疹、ハシカ、おたふくカゼなど人にうつす可能性のある病気のチェックと、B型肝炎のワクチンを受けて抗体ができているか否かのチェックである。

 ツベルクリン反応まであるのには驚いた。院内感染は絶対に起こさない、という強う姿勢である。このスクリーニングをうけてはじめて「新規スタッフ研修会」が行われる。これはすべて危機管理オリエンテーションである。

 こうしたチェックシステムは、大学及び病院で働くすべての人に行われている。健康スクリーニングはボランティアや専用バスのドライバーなども等しく受けているようだ。しかも、スタッフ用の健康診断部門が、ダナハーバー研究所の一角に特別に設けられているのだ。予防にお金をかけることの大切さを痛感した。

 さて、東京にオリンピックをという動きが活発になっていると聞く。それに文句をつける気はない。しかし、地震や災害のリスクを考えると危機管理にお金をかけてほしいなぁ、とあらためて思ってしまう。
 医学も都市計画も共通した部分がある。予防と危機管理がまず一番にすべきことではなかろうか。

2008.10.5.sun