新しい年、経済が好転してほしいなあ、と考えている方がほとんどだろう。しかし、多くの人の目が経済や収入などばかりに向いていることには、危険な面もある。今の状況を乗り切れればそれで幸せがやって来るかというと、そうとばかりは言えない。

バブルのころも精神的な問題を抱える方は多かったし、豊かな社会、一億総中流と言われた時期も、定年後の男性の心の不安や女性の子育て後のうつなど、悩みは多かったのだ。条件が良ければ幸せになる、という短絡的な思考は、少々転換してほしいと思う。

経済状態が、心と身体の健康を左右することも確かではある。アメリカでは、低所得層のがん死亡率が高く、健康格差が生じていることは、今まで何回か紹介してきた。

しかし、収入が多いほど健康かというと、そうでもない。アメリカ国民の1人あたりの国内総生産(GDP)はコスタリカの約10倍もあるが、両国の平均寿命は同じという。わが国の1人当たりの実質的GDPは、1964年から81年にかけて2倍になったが、主観的な健康、幸福状態は上昇しなかったとの研究がある。つまり、幸せを外的条件だけに求めてはいけないわけだ。

では一体、何が健康と主観的幸せ度を決定するのだろう。ティム・カッサーとリチャード・ライアンという2人の心理学者は、人生の目標を外的条件(経済的成功、名声、美貌)として努力する人と、内的な事柄(他者とのかかわりを満足なものとし、世の中を良くすることと自己成長すること)に価値を置く人の心のありようと健康について調べた。その結果、前者では喜びを味わうことが少なく、抑うつや体の不調が多いと発表している。

心と体の健康は、景気回復だけでは保てない。外的条件の達成ばかりではなく、内的な事柄という目に見えにくい目標にも、あえて目を向ける時期のように思う。