2006年に「自殺対策基本法」が成立して以来、都道府県は、こころのケアや対策事業に力を入れるようになった。私も、関連の講演会で話をする機会がある。聴衆の方々とお話ししていると、意外と自殺に対する誤解が多いと気づき、驚く。

例えば、よく言われるのは「死ぬ死ぬと言っている人は自殺などしない」というもの。これは誤解なのだ。自殺する人は、その前に言葉や行動のサインを出している。「自分なんていない方がいい」「消えてしまいたい」「死にたい」は言葉によるサインである。軽く見てはいけない。また、始終ケガをしたり、事故を起こしたりするのも要注意である。慢性疾患のある人が薬を飲まなくなったり、治療をしなくなるなど、「身を守る行動」ができなくなるのがサインという場合もある。

中高年から高齢層で気を付けたいのは、「喪失感」だ。職や財産など、その人にとって大切なものを失ったとき、身近で大切な人を亡くしたとき、さらに、身体機能が低下して今までならできたことができなくなったときにも注意が必要である。喪失感と共にうつ状態に陥り、自殺へとつながるケースも多い。

自殺は突然的に起こるから予測できない、というのも誤解のひとつ。とはいえ、身近にいる家族だけで事前のサインをキャッチできるかというと、難しい場合もある。職場、地方自治体、医療機関、友人、近所など、さまざまなコミュニティーがそれぞれ自殺に関する知識を持ち、サポートできるシステムを持っていないと予防できないだろう。残された家族だけが、「家族なのになぜ気づかなかったのか」などと責められて、二重三重に傷つく例も少なくない。

「自分なんていなくても世界は変わらない」とつぶやかれたら、「あなたがいない世界に変わってしまう」と答えてほしい。