Aさんは30歳で職場結婚し、35歳で出産。仕事と子育ての両立が難しく、退職した。しばらくは専業主婦をして、子供が中学生になった後、再びパートで働きはじめた。現在はAさんも夫も共に50歳。夫は順調に出世コースを歩み、充実した仕事で生き生きと過ごしている。Aさんは、夫の話を聞くたび複雑な気持ちになってしまう。自分も仕事を続けたかったのだ。

妻のサポートで思い切り仕事に打ち込める夫が、うらやましくなる。夫の出世がうれしいのは、妻として当然。しかし同時に、ふとさみしさも感じる。自分がもし仕事を続けていたらどうだったかしら、などと考えたりもする。今、Aさんができるのはパートの仕事だけ。責任のある仕事も求められてはいない。大学院を卒業していい仕事をしていたから、能力を生かしきれないもどかしさも感じるのだ。

そんな心のうちを同窓会で恩師にちらりと話したら、「君は夫が出世しない方がいいのか」と詰問されたという。「パートで仕事をし、子育てをして、二つも自分の世界を持っているんだから何が不満なんだ、と言われちゃった」とAさんは嘆く。

夫の出世は確かにうれしい。それでも男性はいいなあ、とうらやましくなる気持ちは、仕事を続けられず不完全燃焼感を持つ女性にしか分からないのかも。もし逆に、男性が仕事を辞め、妻が仕事を続けて出世したらどんな気持ちになるか想像してみてほしい。

カウンセリングで、しばしば、妻たちの夫の出世に対する複雑な思いを耳にしてきた。彼女たちは、夫と同一化するだけでなく、自分らしい生き方をしたいと願っている。夫の出世で自分も偉くなったと感じ、夫の肩書で自分の社会的地位を決める女性とは違う。そんな女性たちの葛藤を、「ぜいたくでわがまま」とレッテルをはらず、共感をもって受けとめてほしい。