前回、アサーティブ(assertive)になる、つまり自分の考えをきちんと相手に伝えるための3つのステップについて述べた。自信を持ち、感情的にならずに話し、かつネゴシエーション(交渉)のイエスを提示する方法だ。アメリカ式のこの方法、日本でやってみると何%成功するか。私の感触では、50%くらいかと思う。

 私自身は、大体この方法でノーの意思表示をしている。だが日本の場合、その場はそれでオーケーでも、あとで「あの人はちょっとうるさいなあ」と思われて、その後、仕事の依頼がこなくなることが結構多い。あるいは仕事は続いても、陰で面倒な人だとうわさされたりする。

 Aさんは、職場で同僚からさまざまな仕事を押しつけられ、特に人の仕事の後始末が多かった。いつも黙って引き受け、イヤな顔をしなかったので次第にエスカレート。数年間それが続いて体調が悪くなった。会社に行くとじんましんが出ることもあり、休職。最近やっと回復して、今後はアサーティブに仕事をしようと決めたそうだ。

 かなり上手に、感情的にならずに引き受けられない仕事を断るようになったAさん。だが、陰でいろいろ言われることも多く、アサーティブになる難しさを実感している。たしかに、日本の風土には「波風をたてないこと」をよしとする風潮がある。「逆らわない人」が出世する場面を目にすることも多い。あとで「こわい人」と思われるのがイヤで、アサーティブになれないことも多いだろう。

 もの言わぬは腹ふくるる、とつづったのは吉田兼好だ。吉田兼好も、「ちょっとこわい人」とうわさされたのだろうか。

 それにしても、近頃のリストラを見ると、アサーティブになれない日本の風潮を改善しなければ、心や体を壊す人がますます増えそうだと感じられてくるのだが。