私は、大学で心身医学のほかに女性学も教えている。背景には、医療現場で体調を崩した女性たちと20年以上かかわるなかで、女性の生き方の選択肢が広がっても多様性を受け入れられず、ストレスになるケースを多く見てきたことがある。

 自分と違う生き方を選ぶ人を受け入れるのは難しい。これには若いうちからの教育が必要だと思う。女性学の講義での学生たちは、新学期が始まる4月からわずか4ヶ月ほどで、飛躍的に成長する。

 ある学生は、他の学生の発表に、いつも一番大きな拍手を送っていた。励ましとねぎらいが伝わり、なんていい拍手をする学生だろう、と思っていた。そこで、夏休み前最後の講義で彼が発表するためのテーマを出した。

 講義の前に、彼がやって来た。先生が出されたテーマとは違うが、どうしても発表したいのでいいですか、と言う。自分のテーマがあるのは大歓迎、でも、なぜそれを選んだか説明するようにと伝えた。

 テーマは、同性愛の悩みについてだった。人は、多様性を受け入れるのが大切だという。しかし、いざ同性愛となると、気持ちが悪いと感じる人が7割にのぼる。このため、そうした傾向をもつ人は家族にも打ち明けられず、自己否定感が強く。将来に希望が見いだせず、ひとから理解されない孤独にさいなまれ、自殺未遂も多い。

 この学生は、ボランティア活動を共にする仲間の大学生からそれを打ち明けられた体験をもとに、ものごごろついたときになぜかそうなった人。自分とは違う傾向をもつ人を受け入れる難しさと重要性を語った。

 発表は、実体験をもとにした説得力と優しさにあふれていて、聞く者の心に響いた。私は一生、彼の発表を忘れないだろう。法学部の彼が大きな心をもつ弁護士になることを祈っている。