昔は運動会というと秋と決まっていたが、このごろは今の季節にも行われるらしい。近くの小学校の運動会がベランダから見えて、子供のころいわゆる「かけっこ」が苦手だったなあ、と思い出した。

 今の運動場は、きちんとレーンがひかれているが、私の子供時代はそうではなく、スタートすると内側の一番いいレーンを、周囲をおしわけて確保し、その場をキープしながら走りぬく子供が一等になれるのだった。私はというと、スタートで人をおしのけるのが苦手。みんなを先に行かせてから最後に内側を走るから、当然ビリだ。

 親からは情けない子と言われるし、教師からは「気弱で競争社会で生き抜いていけない」「一人っ子だから競争できない子」と評価された。今でも多分、あのスタイルの「かけっこ」をしたら私はビリだろう。でも、今までなんとかこの「競争社会」で生き抜けたのは、私が「人と競争する場」をもってきたという2点による。

 医師が病気をもつ人とかかわるのに競争はないし、研究やものを書くことは自分自身との闘いであり、修行だ。社会的にいいポストを得たり有名になるという「競争」をしなければ、十分生きていけるし、むしろ心地良い。

 人をおしのけて先に出ようとする本能を持つ人が多いのは、多分、何億年も前から競争で他をおしわけて勝ち抜いたものが生き残り、我々はそんな勝者の子孫だからだろう。

 でも、なかには「競争が苦手」な子供がいるかもしれない。そんな時、周囲はがんばって競争しなさい、とはっぱをかけがちだ。しかし、どうしてもそれができない子供がいる。少数派のそんな子供を弱い人間と決めつけないでほしい。そして、他者とではなく、自分自身との競争を通して社会とかかわる道を探す手助けをしてほしいと思う。