せっかくの大学生活なのに、大学にこないでバイトばかりする学生がいる。学費や生活費に困るわけではなく、遊ぶ金がほしいからと聞くと、本当に残念だ。人生には、その時にしかできないことがある。時期を逃すと、後で同じことをするのに苦労がいる。人生は季節とよく似ている。冬に泳ぐのも夏のスキーも大変だ。お金をかけて、遠くに旅行しないとできない。

 しかし、人間というものはどうやらすぐ、「その時にしかできないこと」を忘れて、別のことをする生き物のようだ。新しい年をむかえてひとつ年をとったわけだが、「その年じゃなきゃできないこと」なさっていますか?

 年を重ねるにつれて、「自分はまだ、若いころと同じようにこれができる」と誇らしげに語る方が多い。それは結構かもしれないが、私自身は、若くなくちゃできないことを追い求めるのはやめにした。年をとったら、年をとらなくちゃできないことがあるからだ。年をとる、という一見ネガティブなイメージの環境でも、「その時にしかできないこと」を見つけようと心がけると、しゃんとするものだ。

 ものごとがうまくいかなかったり、経済状態が悪かったり、病気になったり、人生にはさまざまな季節がある。その時々で「その時しかできない」ことに焦点をあてると、ストレスフルな状況が全く違ってみえてくる。

 医師フランクルの著作で、脳腫瘍になった男性の話が紹介されている。その男性はたしか専門職をもつ有能な人だったが、病気のため仕事ができなくなった。そこで、病床で本を読みはじめたが視力も失い、今度は音楽をききはじめた。

 しかし聴力も失い、激痛で医師に麻薬を打ってもらうようになる。最後に、彼は自分を世話する医師や看護婦を思いやりながら亡くなる。大変な時代とは、若さを誇ることより、大人の生き方を示す時でもあるのだ。