講演で日本へ来たハーバード大学の教授が新幹線のグリーン車で配られる紙のおしぼりに感動し、おみやげとしてボストンへ持ち帰った。いわく「日本ってすごく清潔だよね。すごい」。

 確かに、アメリカでは国内線の飛行機も、列車も、おしぼりなんて配らない。私は、日本に帰ると、スポーツクラブのプールの水質のよさやタクシーの車内の清潔さにほっとする。もちろん、食品の質も同様で、一ヶ月以上賞味期限がある豆腐や、室温で置いておいても傷まない保存料たっぷりの野菜にぴくぴくしなくていいから、本当にうれしい。

 きちんとしたサービスのホテル、時間どおりに運行される交通機関、残高がゼロでもちゃんと無料で口座を維持してくれる銀行、三枚おろしの上手な魚屋さん…。日本だと当たり前のことが、アメリカでは当たり前ではない。自分の国のよさは、自分のよさとよく似ていて、なかなか気づかない。自分のよさに気づかず、一生懸命他人のようになろうとする人は多いが、国の場合も同じである。

 カウンセリングで気づくのは、自分の悪い面ばかりに目がいき、自分を責める人が多いことだけど、あなたはどうですか。自分なんて、と思う謙虚さも大切だが、客観的に自分を見つめ、自分のよいところに焦点をあてて、そこに磨きをかけると、悪いところすら魅力になったりするものだ。

 日本は、一生懸命アメリカの後を追いかけて、自分の持っているよさに焦点をあてること忘れてしまったように思う。今、日本は競争格差社会に到達しつつあるが、アメリカはすでにそのひずみで生じた教育や医療の格差を是正しようと、方向転換している。

 自分自身のよさや自分の国のよさにもう一度目を向け、それに磨きをかけたいものだ。清潔さやまじめさがないがしろにされる風潮は、悲しい。