ファストフード店で食事をしている人を見て、日本の留学生が「単におなかを満たすためだけの食事なんてしたくないです。きちんとしたいいものじゃなきゃ、食べない方がいい」と言うのを聞いて考え込んでしまった。

これはエリートの意見である。彼女は両親ともに高学歴で、いい職業についている。誰だっていいものを食べたい。でも食べられない人がいることをエリートはわからないことが多い。

今アメリカはご存じの通り大不況で、人々はレイオフにおびえている。10ドルほどで食べられるおいしいピザの店でさえ、昼食時にわずか3人しかお客がい ないくらいにガラガラの状況だ。体によくてバランスのとれた食事は健康を保つのに不可欠だが、貧困でそうした食事をとれない人がいる。

アメリカの経済格差は日本の比ではない。ピザの店はガラガラだが、高級ホテルのレストランは着飾ったカップルであふれていて、本当にどうなってるの、と言いたくなる。

さて、経済格差が病気の罹患率とかかわりがあるのをご存知だろうか。貧困と情報不足、教育格差などの理由で、正しい医療知識、予防対策ができない人たち がいる。そうした人のがん死亡率は豊かな人にくらべて高い。私が所属しているハーバード大学公衆衛生大学院HSPHとダナ・フェーバーがん研究所では、情 報格差とがんとの関係について盛んに研究している。

「貧困は発がん物質である」などという医学者もいる。貧しくて何が病気をひきおこすのかという知識もなく、また知っていてもいいものを食べられなければ病気のリスクは高くなる。

以前、地方に出張に行き、飛行機が遅れ夕食をとれず、深夜に「体に悪そう」な冷えたおつまみを食べた。倒れそうなので不本意ながらも食べたのだ。今、
貧しさゆえに不本意ながらおなかを満たすだけの食事をする人がいることを忘れたくない。