子供のころから両親の仕事の関係でアメリカで生活することが多かったAさん。最近3ヶ月ほど東京に出張することになり、家具つきのアパートを借りた。
 食器や料理の道具など細々としたものが不足しているが、短期なので購入するのもためらってしまう。東京は物価も高いからなおさらだ。

 そんな折り、たまたま夫の友人の家に招かれ、食事をごちそうになった。とても親切な家族で、「うちは使わない食器やおなべが多いから、どうぞもっていって使ってください」と言われた。
 Aさんの印象ではいつまでもお使いになっていいですよ、という雰囲気があったから、ありがたくお借りした。おかげで料理するのが楽になり助かったそうだ。

 ところがひと月たったころ、夫の別の友人の家族から、「Aさんが借りた食器をなかなか返してくれないから、貸した人が困っている」といううわさを聞いてびっくり。Aさんはうわさがたったことにも驚いたが、どうして直接返してほしいと言ってくれなかったのだろう、と不思議がっていた。

 日本式リップサービス、というのだろうか。わが国独特のコミュニケーション方式というものがあるのは否定できない。いつまでもどうぞ、と言われても、言葉通りに受けとってはいけないこともある。何でも言ってください、と言われてその通りにしていたら、とんでもないことになる。言葉の裏を考え、相手の真意を「察する」という技が必要なのである。

 アメリカのように、はっきり相手に直接ものを言うコミュニケーション方式とは全く違う。

 どちらがいい、悪いということではないが、違いを認識していないとトラブルのもとになる。育った環境によってコミュニケーションの方法はさまざま。違いがあることを認識しておくのが大切なのだろう。 

2009.2.15.sun