自分らしさを生かせず心や身体を病んでいないか?

「やせたら」
「きれいになったら」
「仕事ができたら」
幸せになれる、愛される…と思っている女性の、何と多いことか。そして、見当違いの努力で疲れ切ってしまっている。
 なぜなら、いくらやせて、いくらきれいになっても恋人に巡り合えないと、まだまだやせて、もっともっときれいにならないと幸せになれないと思い込んでいるからだ。そして、極限まで自分を追い込んでしまうのだ。

 ブリジット・ジョーンズも、そんな女性の一人である。体重60キロ超、タバコ1日数十本、酒量多し。出版社に勤務しているものの、エリート社員とはいい難い、。ダイエットし、タバコをやめ、酒量を減らして素敵な恋人を手に入れたいと思い、努力しているのだが、ダイエットにも禁煙、禁酒にも成功しない。
 なぜ彼女が過食に陥り、タバコを吸うか。その背景には「満たされない心」があるからだ。それを彼女自身は「パートナー、恋人がいないフラストレーション」だと思っている。しかし私の目には、単なる寂しさとは映らない。
 最近、わが国では「30過ぎて独身、子どもなしは負け犬」
という、ひどい女性論が話題になっている。
 ブリジットが味わっているのも、そうしたささやきに対するプレッシャーなのだ。
パーティーに出かけると、周囲は皆、カップル。同世代の女性たちはパートナーを見つけているのに、自分は一人…という「みんなと違う生き方」をしている、世間から置き去りにされたような気分。30歳を過ぎているのに仕事もいまひとつパッとしない。「このままでは、将来自分はどうなるのか」という不安。
 そうした感情が、ブリジットを酒と煙草と過食に向かわせているのである。
 ここで、なぜブリジットが出版社に勤めているのか、という疑問がわいてくる。
 特に読書が好きとも思えず、作家にも編集にも世界情勢にも興味がない彼女が、なぜ出版社に勤めているのだろうか。

 それは単なる格好良さと、「出版社勤務」というセレブな気分、もしかするとそこに知的な、いい男がいるかもしれないという期待からではないだろうか。
 出版社が、彼女の自分らしさを生かす場ではないのに、無理してその場に適応しようと背伸びをし、無理をするから窮屈なのだ。そして失敗も多くなる。自信もなくなる。
 ブリジットのこうした生活を見ていると、透けて見えてくる多くの女性たちがいる。自分らしさを生かせず、格好だけで選んだ、ちっとも好きではない一流企業で、ストレスをいっぱい抱えて心や身体を病んでいる女性たちである。

世界で唯一の存在である自分を認め、最大限に生かそう

さて、ブリジットの生活は、出版社の上司のダニエルとかかわることで一変する。ダニエルの単なる火遊び相手となり、ブリジットは天国から、一挙に地獄の気分に陥ってしまう。
 しかし恋を失い、仕事を辞める羽目になったことが、彼女の本当のスタートとなった。つまり挫折し、背伸びした自分を捨て、本当の自分らしさを隠さずに生きていくことになって初めて、逆に彼女は次第に世間と折り合いをつけていけるようになる。そして、恋人マークを手に入れるのである。

 この映画は、単にドジで体重が多くて30過ぎた女でも素敵な恋人が持てる、だから大丈夫……などという単純な見方をしてほしくない。ブリジットの持つ「自分の感情に嘘をつけない」資質、そして決して「人の足を引っ張ったりしない」性格、職業やそのほかで人を差別しないという傾向に注目してほしい。そして「どうしても壁にぶつかり、どうあがいてもうまくいかないときは、自分らしさを生かしていない」というサイン、そんなメッセージに気づいてほしいと思う。
 この映画の中で、マークがブリジットに向かって、
"Just as you are."
「ありのままの君が好きだ」と告白するシーンは、男女を問わず、観る者の心に沁みるだろう。「好き」「愛している」ということは、そういうことなのである。
背が高いから、かわいいから、やせているから、きれいだから、好きなのではない。「好きだから好き」なのだ。

 人は皆、世界で唯一の存在。それだけでもう、充分に素敵なことなのだ。だから、安心して自分らしさを最大限に生かしたい。
 ありのままの自分でいるということは、努力を放棄することではない。
 より自分らしさに磨きをかけるということなのである。
 心地よく愛し、愛されるということは、そんなふうにありのままの自分を見せ合い、受け入れ合える二人だけの宝物なのである。